October 16, 2005

半年読んできた。

『眠られぬ夜のために』第一部

「10月4日

現代人が、キリスト教という永続的な心の平安にいたる道に背を向けるのは、キリスト教本来の証しが原因ではない。

(中略)

彼らが反感をもつのは、この宗教の人間的な担い手に対してである。

(中略)

まず、それら『周りにからみついている』一切のことをすてなさい。
さらに、それでもなおいくらか懸念を感じるならば、
今日の教会に頼らなくてもよい。
しかし、心からの願いをこめて、
『主よ、私をお助けください』といいなさい。
この祈りはすでに多くの人々を救ってきた。」
(岩波文庫:草間・大和訳)

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このブログを立ち上げて、ようよう半年きた。
毎日、ヒルティ『眠られぬ夜のために』をちょっとずつ読んで、
心に触れたことがあったら、
時間があるときにだけ、
書く、という実に気まぐれなブログではあるけれど、
累計アクセス数も半年で6000を超えました。
記事に関して助言や感想をくださった方々には、ずいぶん学ばされました。
みなさま、本当にありがとうございます。

今日は、半年読んできて、『眠られぬ夜のために』の全体的な感想を述べたい。

『眠られる夜のために』はロングベストセラーである。
わたしの手元の本で、49刷。
第一刷は今から32年前だ。
岩波文庫が一回で何部刷るのか分からないけれど、
わたしの勤務先だと、文庫は一回につき、最低1000部くらい。
初版が1万とすると、累計でおおよそ6万部程度だろうか。

タイトルに惹かれて本屋で手にした人も多いかもしれない。
魅力的なタイトルである。
宗教を問わず、ヒルティには励まされたり慰められたり人も数知れず。
それは彼の知性の高さ、信仰の深さによるものだ。

岩波文庫の訳者の一人、大和邦太郎氏によると、
ヒルティは若かりしころ、たくさんの書物を読みふけったものの、魂の乾きを癒すものはなかった、という。
どんな哲学や理論、神学さえも、生死の大問題を解くことはできない。
そうして行き着いたのが、
「イエスの福音に信頼して生きるよろこび」であった、というのである。

そこで、ヒルティは、
後輩たちが行き詰まったり寄り道をしないよう、助言を書こうと思い立つ。
教会でさえも、理性に解しがたい古くからの教理を丸呑みさせようとして、多くのまじめな求道者をつまづかせている。

「これに対してヒルティは、福音書のイエスの教えを素直に受け入れて、実行してみよ、
そしてその真実をためし、それによって心によろこびが与えられることを経験できたら、その教えを信じたらよい、と薦める。」(岩波文庫解説)

そしてそのことばは、
「すべてがきわめて実際的であり、簡明で的確なものである。
教えられる者の精神を力づけ、その生活と実践に有益なものばかりである。」(同)

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まあ、まずはやってみな、それでよかったら信じてみな、というヒルティの助言はなかなか現実的。
ゆえに、キリスト教徒の少ないこの日本においても、多くの人をひきつけてやまないのだと思う。

翻訳者の大和氏は、
「この書を読む方は、たえず聖書をかたわらに置いて、著者の引用箇所を参照する労を惜しまないでほしい」とも言う。
これが、聖書通読がなかなかできない怠け者クリスチャンのnikkouにもポイント高し、でありました。
ヒルティ爺さん、本当にありがとう。

ただ、一点だけ、半年間気になっていることがある。
ヒルティがよく参照として揚げている「同胞賛美歌」である。
いつも賛美歌番号がぽつんと示されているだけで、
歌詞がわからない。
当然ながら、nikkou手持ちの日本基督教団編の讃美歌集とは違うみたい。
このヒルティの讃美歌集がほしい、とひそかに願っている。

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March 13, 2005

『眠られぬ夜のために』について

日付とともに、
ヒルティ自身の信仰にもとづくエッセイと、賛美歌や聖書の引用が付されています。

1901年に第一部が刊行、
ヒルティ死後の1948年には、遺された草稿をもとに第二部が刊行されました。

ちなみに私の手元には、神田の古本屋の店先で手に入れた岩波文庫版の本書があります。
中扉に「増田蔵書」というおおきな蔵書印。
赤鉛筆でところどころ印がついています。
大きな丸印や、ごしごしと強い筆圧での波線。
増田さん。どんな人だったのでしょうね。
第一部のあとがきのページには「’76.4.19」
第二部には「’76.4.30 車中にて」との走り書き。
私が生まれる前の日付です。

この古書を手にいれたのは2001年の冬でした。
就職活動に汲々としていたこのころ、
神田のちいさな出版社に手紙を出し、
「就職させてください」とお願いしたところ、
社長みずから「一度いらっしゃい」との電話をもらったのでした。
胸はずませて、社長室の戸をたたいたのですが、
結論は、「今の状況ではこれ以上の雇用は無理です」とのことでした。
社長さんは、細身で白髪の紳士然とした人で、
彼が私の母校である中学高校の出身であること、
履歴書を見てそれを知り、直接話したかったとのこと、
好きな本のこと、出版不況の厳しさなど、
一時間ばかり、静かにお話しされました。

出版不況どころか、就職難のころ。
社長室を辞し、
神田の町をふらふらグルグルと歩き回って涙がひくのを
ぐっと待っていたのでした。

と、そこへ、「眠られぬ夜のために」の背表紙が目に飛び込んできたのです。
「ああ、まったくだまったくだ。今夜はまったく寝られねえ」と
つい中身も見ずに買ったのですが、
その後、きちんと開いて読んだのは、就職も決まってから一年以上もたってから。
その夜は…、熟睡したんでしょうね、きっと。

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ヒルティについて

カール・ヒルティ(Carl Hilty) 1833年 - 1909年
スイスの法律家・思想家。

弁護士として仕事にうちこむかたわら、
法律家としての高い見識と、クリスチャンとしての深い信仰心に基づく多くの著作を残しました。
晩年はベルン大学にて教鞭をとり、若い法律家の育成につとめ
ハーグの国際仲裁裁判所判事に任命されるなど、
周囲の信頼も篤かったとのことです。
(参考;岩波文庫『眠られぬ夜のために』「解説」草間平作)

邦訳として、
岩波文庫『幸福論』(全三冊)草間平作・大和邦太郎訳
岩波文庫『眠られぬ夜のために』(一部・二部)草間平作・大和邦太郎訳
筑摩叢書『眠られぬ夜のために』(第一部・第二部)前田敬作訳(絶版)
白水社『眠られぬ夜のために』小池辰雄
などがあります。

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