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April 01, 2005

『不登校、選んだわけじゃないんだぜ!』

ひさしぶりに痛快な本に出会った。
『不登校、選んだわけじゃないんだぜ!』(貴戸理恵・常野雄次郎著 理論社YA新書)
不登校の当事者であった著者ふたりが、子供不在の不登校論に異議申し立てをする一冊である。

80年代の「不登校もひとつの生き方、選択である」という考え方に、不登校の子供も親も救われてきた。
「ほんとうにありがとう。」と、貴戸さんは言う。
そして―――

「よくも言ってくれたわね。」


ぎくっ、としないか。

そして、もう一人の著者、常野さんはいう。
「登校拒否」を認める論理には、ひとつの物語がある。
「かつて、不登校でした。でも、今は明るい社会人です。」
あるいは、「学校に行かなくても、明るくのびのびやっています、そういう道を選択したのです。」
だけど、

リアリティのないハッピーエンドはもうたくさんだ。

貴戸さんは、こういう。
学校に行きたくない、行けない。いやだ、本当につらい。
だけど。
家で孤独を抱えているのもつらかった。
行けない、でも、行きたい。
どこにも逃げ場がない。矛盾だらけ。
私は、そんな「生き方」を「選択」したのか?
自分でも分からない。
だから、
軽々しく、「わかる、わかる」「理解できるよ」といわないでほしい。
そして、上野千鶴子のことばを借りて、こういう。

「一番望ましいのはよく理解できないが理解できないものがそこにある、ということを認めること」

このメッセージに、私は肩をつかまれて、がくがく揺さぶられるような衝撃を受けた。
――相手を「理解」しなければならない、「わかる、わかる」とうなづいて、あいづちを打って…、
それが人とのベストのコミュニケーションなのだ、と思っていた。
でも、不可能なのである。
わからないのである。
なぜ、この人がそんなことを言うのか、なぜ、あの人はこんなことをするのか。
当然だ。私の得てきたほんのわずかな知識と経験で、なにが分かるというのだろう。
だから、結局「あの人もイロイロ大変だから、しかたないのよね、わかるわ」と、お茶をにごす。
ちっともわかっていないくせに。

「裁くな」いう聖書の思想は、ひょっとして、「理解しろ」ということではないのではないか、とふと思った。
あ、そういえば、イエスも言っていた。

「するままにさせておきなさい。なぜ、この人を困らせるのか。」(マルコによる福音書14章6節)

食事の席に突然入ってきて、イエスの頭に高価な香油をそそいだ一人の女。
あっけにとられて見ていた周囲の人々はわれにかえって、口々に彼女を責めた。
「なぜ、こんなに香油を無駄遣いしたのか。香油を売って、貧しい人に施したほうがいいのに。」
しかし、イエスは逆にその人々を一喝するのである。
「するままにさせておきなさい。」
イエスは「いやん、やめて~」と身をよじって逃げない。
「何があったのか?話してごらん」と肩に手をおくのではない。
「こんなことよりもっといいことがあるよ」と説教もしない。
堂々として、ただ、まるごと受け止める。
女になにがあったのか、なぜそんなことをしようと思い立ったのか、聖書にはなにも書かれていない。
ただ、イエスの、どっしりとした態度だけが、光っている。

ああ、こんなコミュニケーションのあり方があったんだなあ…、と思う。
私はともすると「頭でっかち」な解釈で、人を理解しようとする。
ニューヨークのハーレムで出会った黒人さんたちを「理解」するため、帰国後アメリカ史をひもとき、
いつまでも社会に出てこない友人を、精神科の本を読むことで「理解」しようとした。
でも、わかんないんだよ、ほんと。
だから、正直にいって、「理解しなくていい」って、言われると、ちょっとほっとしたりする。

ごめん、わからないや。
でも、あなたがそこにいることを、私は知っていて、いつも心にとどめている。
それで、いいかな。

貴戸さんは、最後に自分の妹にいう。
不登校の姉を持ち、学校でも家でもいたたまれない思いをしてきただろう、妹。
ごめんね。

わたしには、あんたの気持ちを書くことはできないから、いつかどこかで、何かのかたちで、あんたが自分のことを語るのを、待ってる。

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