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May 25, 2006

藤田嗣治展

『眠られぬ夜のために』第二部

「5月25日

(前略)
…個人的な神の信仰がなくても、
たんに一元論や、その他の中途半端な、もしくは完全な無神論的哲学や、
あるいはヒューマニズムや社会主義や芸術や知識欲、
さらには個々の人間にたいする崇拝や愛情、
そういったものだけで、内面的に傷つくことなしに、喜びをもって、
労苦と困難とに満ちた地上の生活を渡りきることができるとも考えてはいけない。
…」

(筑摩叢書:前田敬作訳)

更新が滞っているのは、現在、教科書営業中だからです。教科書は一般書籍と違って直販みたいなもので、シーズンになると版元の人間が、行商のおばちゃんよろしく商品背負って学校ごとに売り歩くのであります。心身ともにへとへとの毎日。
そんなわけで、ずーっと書きたいと思っていた藤田嗣治展の感想が書けないままでした。
藤田展、こないだの日曜日に観に行ってきたのであります。
Fujita

藤田嗣治の名前を知ったのは、新入社員時代、著作権の研修のとき。
出版や掲載の許諾が降りない画家、降りても突然中止になるなどトラブルが絶えない画家として紹介されてた。
なんでも、第二次世界大戦中に戦意昂揚画を描いたかどで戦後責任を問われ、日本に嫌気がさしてパリに移住、現在の著作権者の夫人はそのことで日本を快からず思っているらしい、というのがトラブルの原因とされていた。
だから、この春、「藤田嗣治」展のポスターを見たときは驚いた。
「許諾降りたんだ!奥さん死んだのかな」と思いましたよ。
―あとで知ったところによると、夫人はご健在だそうだ。許諾しないことで、逆に藤田像がゆがめられて日本に伝わることのほうを憂えたとか。

そんなこんなを、先日のゴトウさんの記事で思い出し、最終日にあわてて行ってきた、というわけ。
案の定すごく混んでいたのだけれど、この混みように恐れをなした見ず知らずの白人女性に突然声を掛けられ、チケットを譲ってもらっちゃいました。

「すばらしき乳白色」と呼ばれる女性像の、お乳やお腹の薄墨色の陰は、聞きしに勝る美しさでありました。
フランスで「猫と女の画家」と呼ばれて一世を風靡したり、日本に帰国後は商業施設の壁画を積極的に描いたりと、藤田嗣治という画家は、よくも悪くも「流行画家」だったんだ、と思う。
彼の絵は孤高じゃなく、鑑る人と密接に関わっている。

話題の戦争画は、たしかにおどろおどろしかった。
白い女性を描いていた人が、一面の黒である。
でも、「昂揚」するより、厭戦感をかもしてるなあ、というのが正直な感想で、まあ特にそういうものを選んで展示したのかもしれないけれど、こういう絵に「昂揚」するほうも問題だろうが、と思った。
だから、戦後一身に戦争責任を負わされて、藤田が日本に苛立ちというか憤りを感じるのも、分からないでもない気がする。

パリに移住後は、カトリックで受洗、一転、「戦争」ではなく「天国」を賛美する絵を描くようになる。
空に天使、地の下に魚、地に子供たち、そして子供たちに取り囲まれて聖母子を仰ぐ藤田と妻…というような絵は、とてもにぎやかで、あざやかで、そして底抜けに明るかった。

ヒルティの格言じゃないけれど、
「ヒューマニズムや社会主義や芸術や知識欲、
さらには個々の人間にたいする崇拝や愛情」などで逆に傷ついた内面が、
信仰によって癒されたことを祈る。

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Comments

nikkouさん、戦争画と宗教画はそんなに違ったんですね。ほー。
やっぱり京都まで観に行くべきか。悩んでいます。

Posted by: ゴトウ | May 25, 2006 at 09:30 PM

TBありがとうございます。
nikkouさんの記事読んでたら、改めてもう一度見たくなってきました~(><)
とても有名な人なのに、ここまで一堂に会した作品店は初めてのことなんですね。
著作権の関係で何かとトラブルが多かったとは初めて知りました。

Posted by: かみかみ | May 28, 2006 at 11:28 AM

>ゴトウさん

ぜひぜひ、観においでくださいませ。
カタログでは得がたいものが、きっと得られますよ!

>かみかみさん

ご挨拶もなく、TBして失礼いたしました。著作権の話で知ったときは、「んじゃあ、本の表紙や挿絵に使うのはだめってことね」とあっさり引き下がり、その後なんの関心も持たずにきてしまったので、今回の展覧会はほんと勉強になりました。
いい展覧会でしたねー。
かみかみさんのお書きになっていたとおり、変革を恐れぬ才気あふれる画家さんだったのがよく分かりました。

Posted by: nikkou | May 28, 2006 at 09:34 PM

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