« いつでもどこでもだれとでも | Main | 結局最後は「啓示」なんだよね »

August 31, 2006

森鷗外『雁』

『眠られぬ夜のために』第二部

「8月31日
……ダンテは、彼が描いたフランチェスカ・ダ・リミニをむしろ煉獄編に移すべきであったろう。
…同情と後悔とは、地獄にふさわしいものではないからである。
この点では、テニソンはランスロットとギネヴィアの描写にあたり、ダンテにおとらぬ詩的表現を示し、しかも心理的真実においては幾分まさっている。(以下略)」
(岩波文庫・草間・大和訳)

Gan
先日、フリーペーパーの書評で鷗外の『雁』が紹介されていたので、ふと気になって読み返してみた。
初めて読んだのは高校生のとき。ちんぷんかんぷんでした。
30歳になった今、読み返してみると、すごいね、これは。
男の身勝手さと、
流れから逃れえぬ人間関係を書かせると、
鷗外の右に出るものはいないんじゃないかと思う。
そういえば「舞姫」は高校三年生の教材ですが、高校生諸君には、ぜひ、10年後に読み返してみたまえ、と言いたいね。

『雁』に出てくるお玉さんは、「お見合い」で「お妾さん」になり、周囲に遠慮しいしい生きている。
この微妙に社会から認知されているんだかされていないんだかわからない、いたたまれな~い感じとか、男の無神経さとか、そういったものをクールに概観している語り手とか、
文豪の技は細部に宿りますな。

Daichi
ちなみにパールバック「大地」でも、中国の農民王龍が羽振りが良くなってお妾さんを囲うシーンが出てくるが、
「雁」の本妻「お常さん」と、王龍の妻の阿蘭はよく似ている。
不美人で丈夫な糟糠の妻と、
美人で可憐な御妾さんというのは、
小説の類型ですが、
どちらも、檀那(だんな)から、そこはかとなーく馬鹿にされている感じがする。
不美人で丈夫でも大切にされている妻の話ってのはお話にならんのでしょうかね。

ヒルティは読書家で、小説もよく読んでいる。
フランチェスカ・ダ・リミニというのは夫の弟と不義の恋におちた女性、ランスロットはアーサー王物語に出てくる騎士で、やはり恋物語の主人公とのこと。
不義の恋は、地獄ではなく煉獄に行くべき、というところに、彼の恋愛観をみるのはうがちすぎだろうか。
不義だろうが地獄だろうが、もう、どうしたって恋に落ちちゃうことはあるんだなあ、みたいな。
「煉獄」というのは、カトリックの発想で、死後魂の行き先が天国や地獄に決定する前に、魂を清めるために設定されているスポットのことだそうです。

お玉さんは、
妾になるのを仕方ないと受け入れていると思っている一方で
通りすがりの大学生、岡田に片思いし続けます。
これは「不義の恋」になるのか、どうか。
近代的な発想からすると、お玉さんの存在自体が「不倫」なわけですしね。

ちょうど今、仕事で「伊勢物語」に取り組んでおります。
来年の今頃、学芸文庫で出ます。日文関係の友人たちよ、ぜひ買ってください。
著者は、源氏物語の権威のおひとりである某老教授。
一度彼に、以前からちょっと気になっている「近代の恋愛」と「近代以前の恋愛」の違いを、聞いてみようと思っています。
「近代的恋愛観」と「前近代的恋愛観」というのは決定的に違う…と日本文学の先生方はまるで当たり前のようにおっしゃる。でもそれがなにかは、nikkouどうも明確に把握できず。
把握したからってなんてこともないけど、近代の恋愛観にはキリスト教も関わっているというし、まあなんだか面白そうじゃないですか。

|

« いつでもどこでもだれとでも | Main | 結局最後は「啓示」なんだよね »

「2 眠られぬ夜のために」カテゴリの記事

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

不美人で丈夫でも大切にされている妻の話ってのはお話にならんのでしょうかね,ってー箇所。なんとなく、いやいや、ちがいます。美人びじん。すぎ

Posted by: kkss | September 01, 2006 at 07:24 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/91294/11700532

Listed below are links to weblogs that reference 森鷗外『雁』:

« いつでもどこでもだれとでも | Main | 結局最後は「啓示」なんだよね »