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November 05, 2007

イスラーム世界の恋

彼らがしつこくたずね続けていると、彼(イエス)は身を起こして、彼らに言った。
「あなたがたの中で罪のない者が、最初に彼女に石を投げなさい。」
(ヨハネによる福音書8章7節)

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アラブ文学の研究者で、第三世界フェミニズムの論者でもある、岡真理さんという学者さんが、『彼女の「正しい」名前とはなにか』(青土社)という本のなかで、
イスラームの女性に対して、
「あなたたちは古い因習に抑圧された気の毒な方たちだ」
という言い方をしたり、
彼女たちをその抑圧から解放するように求めるキャンペーンを叫んだりすることは、
誇り高き彼女らを、傷つけることなのだ、という意味のことを書いている。
もしその世界の価値観が打ち破られるとするなら、
彼女たちの意思で、また彼女たちの力でなされるべきであって、
「第三世界」からの搾取から成り立っている「先進国」の人間たちが、自省することなく強制的に変化を要求するなんてのは、
逆に彼女たちを貶めることだ、と。

それを読んだときは、なるほどなあ、気をつけなければなあ、と
素直に思ったのに、
ここんところ、立て続けにイスラーム圏の作家の小説を読んで、
激しく揺さぶられている。

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ヤスミン・クラウザー『サフラン・キッチン』(新潮社クレストブックス)。
綺麗な表紙に惹かれて買ったのに、
なかなかショッキングな内容だった。
作家は、母親がイラン出身のイギリス人である。

ヤスミナ・カドラ『カブールの燕たち』も読んだ。
タリバン政権のもと、混乱のカブールでの、二組の夫婦の衝撃的な生き方が描かれる。
この作者はアルジュリアの軍人だった人で、現在フランスに亡命。

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いずれも、人々―とくに女性に
対して、あまりにも苛酷な状況に思えてならない。
前近代的、非人道的、抑圧的、理不尽で、野蛮で、暴力と差別に支配された、暗く貧しい世界…
そうとしか言いあらわしようがないのではないか、と
思わずこぶしを握りしめてしまうような、そんな世界。
日本も「格差社会」になりつつある、なんていうけれど、
ここに描かれているのは、本当の「格差社会」、
生まれた家や性別や環境によって、与えられるチャンスも、生きていく道のりも、あらかじめ厳然と定められている社会。
裁くな、という言葉を反芻して、
岡真理さんの忠告に従おう、と思いつつ、ただ、胸はちくちくと痛む。
もう、ほんと正直言って、「イスラームに生まれなくってよかったなあ」と思っちゃうもんね。

で、ありながら、
『サフラン・キッチン』の主人公、マリアムは、ロンドンでは見つけられなかった深い愛を、イランの大地で取り戻し、
『カブールの燕』では、ひとつの恋に激しい祝福が、命がけの祝福が、与えられる。
自由に恋をし、自由におしゃれをし、教育でも職業でも、チャンスは与えられるべきものとしてある社会では、きっと得られない、激しい恋と激しい祝福。そして、抑圧を跳ね返す、愛への渇望。
激しすぎて、呆然とする。

『サフラン・キッチン』なんて、会社の昼休みに読み終えちゃったもんだから、午後はしばらく仕事にもならずに、ぼーっとしてしまった。

『カブールの燕』では、石打ちの刑のシーンがある。
聖書にも出てくるんだよね、石打ち。まさに姦淫の現場を押さえつけられた女に対して行われようとする。現代でも、親の決めた結婚相手以外の男に恋をしてしまったイスラームの女性は、姦淫の罪を犯したとして、殺されてしまうらしい。
ああ、そうだとすると、この聖書の「姦淫」の女というのは、
たとえば30歳くらい年上の夫に、強制的に嫁がされて暴力と差別を受けていた中で、本当の恋を見つけてしまった人だったりして。―小説の読みすぎかな?
イエスはこの時、「罪のないものから石を投げよ」と言い放って、人々をたじろがせてしまうのだけど。

聖書の中の、古代の言い回しでさっくり書かれている石打ちの刑とちがって、
現代小説において、現代を舞台に描かれる石打ちの刑というのは、けっこう壮絶で、
nikkouの想像の棒高跳びバーなんか、楽々はるか天空へ飛び越えちゃう感じだった。

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