「優劣のかなたに」―大村はまさんのこと
全国集会では、のべ50人近い人の証し(体験談)を聞いた。たとえは悪いかもしれないけど、『遠野物語』(柳田國男)みたいだったよ。
市井の人のささやかな生活の中にある、ささやかな奇跡や感動。
まさに珠玉の短編!って話もあれば、とうとう時間内に収めきれずに、すさまじく取り留めのない話になってしまっている方もいた。
プログラムによって時間はさまざまで、一人20分のスピーチの場合もあれば、分科会などで一人3分、ひとことずつ、ということもあった。
時間がくると、小さなベルが「ちーん」となる。
大勢の人が聞いているところで、3分くらいで、上手にお話をするっていうのは、かなりのテクニックがいる。
ときどき鳴る「ちーん」を聞きながら、nikkouはふと、大村はまさんを思い出した。
はまさんはnikkouの勤める教科書編集部の、精神的支柱となっている教育者のひとりだ。
3年前の4月に98歳で亡くなった。
有名な大学の教授とか文筆家とかというわけではなく、生涯、ごく普通の公立中学校の国語の先生だった。
この先生、今から50年前から、中学生に「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」を徹底的に仕込んだ人である。
いま流行りのフィンランドメソッドやらPISA型なんかも真っ青の、実力重視。
はまさんの言葉でいえば「聞きひたり」「話ひたり」「読みひたり」「書きひたる」国語教育。
はまさんが「時間内に、わかりやすく話をする訓練」に使ったのが、まさに「ちーん」となるベルだった。
はまさんの授業は、たとえばこんな感じ。(教室をいきいきと1』より要約)
はまさんはよく、グループ学習をした。学習の目的によって、グループのメンバーがかわり、そのつど、席替えをした。
そのために、席順表を配る。
そして、ひとつ、注意をする。
「おれの席はどこだぁ?」とか「○○ちゃん、こっち、こっちよぉ」とか、やらないこと。
「どこだあ」と聞かなくても、席順表を見ればわかります。
また「○○ちゃん、こっち、こっちよぉ」というのは、相手がわからないとでも思っているみたいで、大人の場合、失礼です。
これは、単に、授業中は静かにしなさい、というしつけではなく、その後、授業で展開していく「話し合い」(今で言うディスカッション)のための下準備だそうだ。
仲良しのだれだれちゃんと同じ意見、とか、
みんながそう言うならそうだと思います、
というくせをつけない。
相手を一人の大人として尊敬し、また自分の意見を堂々と発表する下準備、というわけ。
もちろん、これは下準備で、これ以外にも、「相手を尊敬し、自分も堂々とする」ための工夫がてんこもりにある。
はまさんの一番のモットーは「明るく生き生きした教室」だった。
そして、そのために重視したのが「優劣のかなた」だった。
中学の国語の授業では、生徒が優越感や劣等感を抱くことがあってはならない。
そうではなく、ひとりひとりにあたえられた能力の中で、ただ「聞きひたり」「話しひたり」「書きひたり」「読みひたる」。そういう態度を身につけさせる。
はまさんは「学力」観は、目の前の受験だけでなく、人生全体を見通したものだった。
たとえば、将来、夕食の買い物がてら、スーパーの袋を下げて本屋さんに寄れる奥さんになること、会社の会議で「話し合い」の上手な人になること、育児のふとしたことを書きとめたり、つらい気持ちを、書くことで整理したりできること…、そんな、豊かな言語活動を身につけた「大人」になることだった。
2005年4月、はまさんが亡くなった時、「大村はま先生のお葬式は、○○教会にて。」と聞いて nikkouは、思わず、イスがひっくり返りそうな勢いで飛び上がってしまうところだった。
そうか、はまさん、クリスチャンであったか!
うかつにも、はまさんの講演会で肉声を聞き、著書も読んだのに、まったく気付かなかった。
しかし、たしかに、「優劣のかなた」とは、聖書的だ。ひとりひとり、体の器官のように役割があって、目が耳に、「あんた、耳のくせに」なんて言わない。それぞれが最大限の役割を発揮せよ、とね。
はまさんは敬虔ぶって、聖書を引用したり、清らかなことを言うタイプの人ではなかった。
主イエスの「神の国と神の義をまず求めよ」というみことばを、自分の持ち場でどのように実践するか、真剣に考えて、命がけで実践した人だった。
口先でなく、生き方そのものから、キリストの香りが香る人、押し付けがましくなく、仕事のなかで、ただ黙々と聖書を実践すると、こうなるんだ、という人。人間だから罪も犯すけれど、方向性においてはきっと、間違っていない、という人。
そういうクリスチャンに、nikkouもなりたい。
3分以内で証しが収まりきらなかった、という方、
ぜひ大村はまさんの著作をどうぞ。



























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